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2013/10/11

2013/10/11 あと20日!

 
「親友」になれるまで
Novel by 花茨ライ様

デュエル・アカデミアは全寮制の高校であるが、日本では珍しく二期制で新学期は秋に始まる。
つまり、10月を迎えた今、俺はまだ入学して1ヶ月程しか経っていなかった。
ようやく教室の配置やアカデミアの規則に従う生活に慣れ始めた頃である。

「亮!」

「……吹雪」

名前を呼ばれて振り返れば、吹雪が手を振りながらこちらに駈けてきた。
天上院吹雪。ジュニア時代にトーナメントでよく戦っていた、大会の上位に食い込む常連だ。
今は偶然アカデミアで同じ寮に入ったため、仲良くさせてもらっている。

「はぁ、亮と一緒にいると心が休まるよ〜」

「…また女子生徒に囲まれていたのか?」

「えっ、どうして分かるの!?」

「校庭が騒がしかったからな」

俺は図書室で本を借り、ちょうど出てきたところだったのだ。
図書室から寮への帰り道、通り抜けた校庭で吹雪が女子生徒に囲まれていたのを遠目に見かけた。
そう言うと、吹雪はわざとだろう、少しいじけたように頬を膨らませた。


「見てたんなら亮も来てくれればいいのに」

「あいにく、騒がしいところは苦手なんだ」

「まぁ、確かに亮は騒がしいところにいるイメージないけどネ」

苦笑しながら隣に並ぶ吹雪は、俺と同じで寮に帰る最中なのだろうか。
足を向ける方向で分かっているようだから黙っていると、吹雪は話を続けた。

「でも、亮って騒がしいところには結構いるよね?」

「……そうか?」

「うん、学食とか購買とかさ」

「それは、行く必要があるから仕方なく、」

「あと、デュエルの大会とか」

「……それは、」

「まあ仕方ないよね、亮のデュエルは綺麗だから」

「きれい?」

デュエルが綺麗だなんて初めて言われたが、一体どういう意味だろう。
硬質なシルバーと流麗なフォルムのサイバー・ドラゴンは確かに綺麗と言えなくもないが、
モンスターの華美、派手さなどは吹雪の操るスフィアの方がよほど上だ。
怪訝そうな顔をしている俺にくすりと笑って、吹雪は俺の眉間を人差し指でつついた。

「そんな顔しないでよ、褒めてるんだからね?」

「……そうか」

「君は興味ないかもしれないけどね、亮のデュエルは綺麗だからさ」

「…その、意味がよく分からないんだが」

「亮のデュエルは無駄がないし、強いから自然と人を引き付けるんだよ」

「そういうものか」

「だから、亮がデュエルすると人が集まって、周りが騒がしくなっちゃうんだね」

それじゃあ仕方ないよね、と笑う吹雪。少々強引な論証だが間違ってはいない。
デュエルが終わって辺りを見回すと、いつの間にか人だかりができていることはよくあった。
ただ、人を引き付けるデュエルをするのは俺だけじゃないと思う。

「お前のデュエルも、人を引き付けるものだと思うが」

「そうかな。もしそうだったら嬉しいね」

「お前のモンスターは可愛いし綺麗だからな」

「もちろん、僕のスフィアは強くて可愛いよ」

確かに、吹雪は本気を出せばすごいのに、どこかおちゃらけた印象がある。
そう、いつもの問答にいつものように返答する頃には、ブルー寮に到着していた。
豪勢な扉をくぐり、寮の自室を目指す。宛がわれたのは上の方の部屋だったから階段で移動だ。

「これだけ広いんだから、エレベータくらいつけてくれればいいのにね」

「そうだな。でもこの寮の見た目には合わない気がするが」

「あー、うん、そうかもね」

美しいものをこよなく愛する男である吹雪は、それで妥協したらしかった。
同じ学年のため、大体同じフロアに部屋があるのだが、吹雪と俺の部屋は隣同士だ。
入学式で新入生挨拶を担当した俺を見て声を掛けてきた吹雪と、
ブルー寮に着いてからこの配置を見て笑い合ったのは記憶に新しい。

「じゃあ俺はこれで」

「えっ、行っちゃうの?デュエルでもしようよ」

「すまない、宿題があって」

吹雪は大抵、寮にまで宿題を持ち込みたくないからと言って学校で宿題を済ませてしまう。
俺はそういうことにこだわりがないため、寮の自室で宿題をこなすのだった。
いつもはそれならと引き下がる吹雪だったが、今日は違った。

「え、じゃあ待ってるよ。だから部屋にいていい?」

「……構わないが」

「やった」

「何か楽しいことでもあったか?」

「どうして?」

「なんだかお前が楽しそうだったから」

「ふふ、親友の部屋に入るのはいつだって楽しいさ」

そう言って鼻歌を歌い出す吹雪に、更に首を傾げる。
…というか。気づけば付き合い1ヶ月で親友にランクアップされている。
一緒にティータイムというならまだしも、俺の宿題が終わるのを待つだけだというのに何が楽しいのだろう。

「……そういうものか」

「まぁ、招き入れる当の本人がつれないけどねぇ」

「仕方ないだろう。……ほら、入れ」

「おじゃましまーす」

勝手知ったる、というか同じ寮なのだから同じレイアウトなので知っているのは当然だが、
吹雪は真っ先に窓側に向けられた白いソファーに腰かけた。
勉強机に座る俺の視界に入らないところをあえて選んだのは、恐らく吹雪の配慮だろう。

「……紅茶でいいか?」

「うん、ありがとう」

「お茶菓子にクッキーがあるが」

「食べる」

「そうか」

吹雪は砂糖を入れないから紅茶はストレートでいいか、とお湯を沸かしながら考える。
最近知ったのだが、吹雪はあれでいて実は甘いものが好きではない。
食べられるが好んで食べないというのを知った時は驚いたものだ。
女子生徒から手作りのお菓子をもらって喜んでいた印象が強かったから気づかなかったのだ。
まあ、今思えばあれは完全に偏見だったのだが。

「ほら、先にクッキーでも食べていろ」

「はーい。ところで宿題ってどれくらいで終わるの?」

「三十分もあれば」

「そっか。ところで今月のデュエルマガジン借りていい?」

「あぁ、構わないぞ」

借りていいか問う前に、既に吹雪の手にはデュエルマガジンがあったので苦笑した。
確かそれは本棚に入っていたはずなんだが、まさか俺の部屋の本の配置まで覚えているのだろうか。

「今紅茶を持ってくる」

「うん、ありがとう」

「食べながら読んでもいいが、雑誌の間に落とすなよ」

「分かってるって」

簡易キッチンで紅茶の用意をして、再び戻ってくると吹雪は既にデュエルマガジンをめくっていた。
ティーカップをローテーブルに置くと、ちらりとこちらを見て微笑された。

「ふふ、亮の部屋にいるとなんでも出てきちゃうなぁ、快適快適」

「一応、客だからな」

「ありがとう。宿題、早く終わらせてよね」

「善処しよう」

そう笑った吹雪の視線はすぐに雑誌に戻ってしまったので、
自分のティーカップを机に置いて、勉強机に腰掛けた。さて、早く終わらせなければ。


* * *


「吹雪、終わったぞ」

振り返ってそう呼びかけると、雑誌を読んでいるはずの吹雪から返答がなかった。
もう一度名前を呼んでも返事がなかったからそっと近付いてみると、ソファーに背中を預けて寝ていた。

「……寝てる、のか」

吹雪が寝ているところを見たことがないわけではなかったが、珍しいと思いながら覗きこむ。
しかし、俺の宿題が終わったのは宣言通り30分前後だ。
そんなに待たせたつもりはなかったのだが、暇だったのだろうか。

「ほら吹雪、起きろ。デュエルをするんだろう?」

手を伸ばして揺り起こすと、寝起きは良い方なのだろう、吹雪はぱっちりと目を開けた。
そうしてニコリと笑うと肩を竦めて悪びれる様子もなく言った。

「待ちくたびれちゃったよ」

「そうか、すまない」

「ああ、でも宣言通り30分で終わったんだね」

俺の背中側にある、備え付けの白い壁掛け時計を見たのだろう、吹雪はそう言った。
立ち上がり、ローテーブルに置いてあったデュエルマガジンを本棚に戻す。
そのまま部屋を出ていこうとするものだから、思わず吹雪に声を掛けた。

「おい、吹雪?」

「なんだい亮」

「デュエルをするんじゃなかったのか?」

「するよ。デュエルディスク取ってくる」

「そういうことは先にやっておいてくれ」

「あはは、ごめんね。亮の部屋が居心地良すぎて思いつかなくてさ」

その代わり驚かせてあげるから、と言って吹雪は部屋の扉を閉じた。
驚かせる、というのはおそらくデュエルでのことだろう。
隣の部屋からデュエルディスクを持ってくるだけだから数分とかからないのに、わくわくする。

「お待たせーってあれ、亮?」

「なんだ?」

「機嫌良さそうだね、何かいいことあった?」

腕にデュエルディスクを付けた吹雪が部屋に戻ってきた。
その間に、俺もデュエルディスクを腕にセットしている。すぐにでも始められる状態だ。
胸に燻る戦いへの興奮を押さえつけたような、挑戦的な笑みを浮かべているのが自分でもわかる。

「お前とデュエルできるのが楽しみでな」

「へえ?嬉しいな、亮にそう言ってもらえるなんてネ」

それじゃあ期待に応えなくっちゃ、と続けた吹雪はウインクを一つ投げるとデッキをセットした。
中学時代、トーナメント決勝でくらいしか会う機会のなかった強い相手と、
今こんなにも簡単にデュエルができることがとても嬉しく、そして楽しい。
そう伝えたらきっと吹雪は大げさだと笑うのだろうけれど。

「じゃあいくぞ、吹雪」

「オッケー、いつでもいいよ、亮!」

こんな生活が3年間も続けられるのだと思うと、アカデミアに来てよかった。
人付き合いがうまくない俺に、入学式後に真っ先に声を掛けてきた吹雪。
たった1ヶ月で俺を「親友」と呼んで、俺を信頼してくれている。
そんな彼を、この3年間で彼が言う「親友」と呼べるようになれたらと心から思う。

「「デュエル!!」」


【完】
 
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